最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)439号 判決 1967年5月30日
上告人 安間一二
右訴訟代理人弁護士 平野光夫
被上告人 株式会社明治屋
右訴訟代理人弁護士 山口吉美
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人平野光夫の上告理由一について
本件当事者間に本件身元保証契約が成立した旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠に照らし、肯認することができる。したがって、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひっきょう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するに帰するから、採用できない。
同二について
麻生博が昭和三五年一月ごろ他から集金してきた売掛代金中一六、〇〇〇円を紛失し、そのころ同人において内金六、〇〇〇円を弁済し、残額一〇、〇〇〇円については弁償をしないでそのまま放置し、被上告会社に同額の損害を加えたが、被上告会社は右事実を全く知らなかった旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠に照らし、肯認することができる。したがって、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひっきょう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難し、原判示にそわない事実を前提として原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。
同三について
上告人が麻生博の身元保証人となった経緯および麻生博の監督についての被上告会社の過失に関し原審の確定した諸般の事情その他本件に現われた一切の事情のもとでは、上告人の賠償義務のある金額を金一五〇万円とした原審の判断は、正当である。したがって、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひっきょう、右と異なった見解に立って原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。
(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)
上告代理人平野光夫の上告理由
一、二、<省略>
三、原判決は身元保証責任の限度に関する法規違背がある。
身元保証に関する法律第五条に謂うところの一切の事情を斟酌するというのは身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定むるにつき裁判所の専恣な自由裁量に委ねるという趣旨でないことは論を俟たないところであり、よろしく、衡平の原則に従い信義誠実に、すべての事情を考察し、経験則に照して、慎重に判定しなければならないことは同条立法の精神である。
然るに原判決は、前第二項において詳論したように、被上告人において通知義務の懈怠があったにも拘らず上告人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき少しも之を斟酌せず、且つ被上告人の監督怠慢、事務処理下の過失は、原判決認定の事実に徴し、極めて重大であるにも拘らず、原判決は之を重要視せず慢然上告人に対し、麻生博が被上告人に与えた損害金三、九六一、四二〇円の三割七分八厘という高率に相当する金一、五〇〇、〇〇〇円の賠償義務ありと判断したことは前述の身元保証に関する法律第五条の法意に違背する違法の判決であると謂わねばならない。